落合がものすごく変人だという話かと思っていたが別に落合に関してはそこまででもなかったぜ『落合博満 変人の研究』(ねじめ正一)

まずは星野さんについての評価が面白いです。ねじめ先生曰く……

星野監督は選手時代、監督時代を通じて、自己演出に努力した人である。闘将、燃える男のイメージを作り上げるためには選手に鉄拳をふるい、乱闘となれば世界の王選手へも殴りかかっていくのも厭わない。おのれのイメージを観衆にどう植え付けるかという計算では、星野仙一の右に出る人はいなどい。
努力の甲斐あって、星野は若くして監督に就任し、監督の座布団に座りつづけた。名古屋の政財界にも可愛がられて、中日監督の座布団だけでなく、野球以外の名誉の座布団も笑点よろしく一枚また一枚と積み上げていった。(P21)


いきなりコレです。この本は今年の4月刊ですから、星野さんが高く積み上げられた座布団の上でふんぞりかえっているところをイ・山田・スンヨプくんに背後から突き落とされ、座布団を何枚か持っていかれる前です*1。さすが『高円寺純情商店街』のねじめ先生、慧眼といえましょう。
しかしこの本で真にヤバいのは、「落合は変人」という感じのタイトルにもかかわらず、読んでいると「落合監督はその出自とかは確かに異端だけど監督としては至って真っ当」みたいな識者の意見が多く、むしろより変人なのはミスターこと長嶋さんと、ねじめ先生をはじめとする熱心な長嶋ファン「長嶋主義者」なのではないか、と思えてくる(私は普通に落合も長嶋も好きです)部分です。たとえば長嶋さんについて、江夏豊さんの証言。

ミスターとの勝負は、何もおもしろくなかったです。抑えてもうれしくないですし、打たれても腹立たない。ミスターは本当に何も考えてない人ですからね。ただ、自分の感性だけでやってこられる。さっきの有藤選手のホームランじゃないけど、「なんでミスター、あの球手出したの」と訊いたら、「うん、来たからね」。これだけですから、考えてもしょうがない。(P41)


長嶋茂雄伝説にあったバッティング指導「来た球を打て!」の通りの証言にクラクラします。
あと、豊田泰光さんとねじめ先生との対談で、ねじめ先生の「私は長嶋さんと落合とを延長線上で考えていて、二人の存在が心でつながっているということでないと、野球に希望が持てない」「長嶋さんの孤独を理解でしているのは落合監督だけ」というアレな発言を豊田さんがバッサリいってるのが面白かったです。

先生、気でも違ったんじゃないですか(笑)。もちろん、落合は、選手時代の長嶋を尊敬していたでしょう。でも、選手と監督という関係になって、その尊敬ががたがたになった。でも、もともと尊敬していた人をぼろくそに貶すわけにはいかないから、胸にしまって、我慢しているんでしょう。ただ、いい反面教師にはなっているはずです。


「選手と監督という関係になって、その尊敬ががたがたになった」の部分については『Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀』を読めば疑似体験できると思います。なんだか話がズレてきましたが、基本的に野球好きな人たちの話なので面白かったです。


落合博満 変人の研究

落合博満 変人の研究

Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀

Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀