ナベツネインタビュー「本来ならドラフトなんかなしにね、自由競争にすべき」

雑誌『BRUTUS(ブルータス)』7月15日号より、ナベツネこと渡辺恒雄読売巨人軍取締役会長インタビュー。「本来ならドラフトなんかなしにね、自由競争にすべき」「良識ある伝統的な球団だけで1リーグを作ろうと考えた」というもはやある種の様式美さえ感じる発言の他にも色々面白かったところがあったので引用。

少し前置きとして、この人は野球のルールを知ったのが社会人になってからで、本格的に野球に関わるようになったのは50代になってからなんですよね。あとロバート・ホワイティングが英語の家庭教師(社会人になってから)だったらしい。




ナベツネとサッカー。

渡辺 それはまあ、日本のね、国民的競技としては野球のほうが上だということと、サッカー、川淵三郎の経営方針と僕は完全に対立するから。サッカーは「川崎ヴェルディ」と言えと。「読売ヴェルディ」と言うことは許さない。「読売」という名前だしちゃいかん。じゃあ、川崎市補助金を出してくれて、選手が決まったり、競技場作ってくれたりするのか。
重松 経営を手放されたあとのヴェルディが、今では2部リーグで低迷していますよね。
渡辺 そうそう。川淵がいなくなったら、もう、あの地域密着をやめてだね、企業の名前を出してやったらいいんですよ。だって、広告だらけじゃないか。
重松 広告、いっぱい貼っていますからね。
渡辺 サッカーの選手は、体じゅう広告だよ。そうしておいて、企業はけしからんとか、企業は汚らわしいと。これは全く矛盾しているんですよ。
重松 ということはですね、そういうJリーグの体制なり価値観なりが変わっていけば、ヴェルディを持つということも。
渡辺 読売ヴェルディでいいと言ったら持ちますよ、それは。 


Jリーグの理念とサッカーのユニフォームが矛盾しているかどうかはさておき、プロ野球のチームを買うオーナーについて、「看板として利用価値があるというのでお金で買うというやり方はおかしい」と言っているのに、読売ヴェルディなら持つ(チーム名に「読売」の看板を出せるならお金を出す)というのは野球とサッカーは違うにしろ少々矛盾しているような気がします。


江川事件について。

 

渡辺 そんな一選手の問題でね、マスコミが大騒ぎするなんていうことは僕には理解できなかったんだ。しかし、ワーワー騒がれ、これじゃあ読売新聞のイメージダウンになる、と。本当に裏でいろいろあったわけだ。それで、何とか江川を獲った。しかし今度は、小林繁くん(当時・巨人軍投手)が阪神に行かないと言い出してね。その説得は、僕がやったんだ。
重松 会長がやったんですね。
渡辺 それで条件闘争さ。「野球選手やめて歌手になる」とか、「タレントになる」と。そのときに、僕は野球を知らないから、代理人と小林くんの区別がつかない。
重松 顔をご存知なかったんですか、小林選手の。
渡辺 知らない。だから、代理人のほうに、
重松 向かって?
渡辺 「君」って(笑)。「よく考えなさい。野球生命を絶つことはないんじゃないか」と、いろいろ説明したけど、どうも相手がちんぷんかんぷんで。逆のほうにいたのが小林くんだったというね、まあ、はちゃめちゃな話だね。 


はちゃめちゃな話というか、単に失礼な話だと思います(笑)。で、「そんな一選手の問題」という言葉とナベツネ、といえば、はてなキーワードにもなっている「たかが選手」発言ですが、その発言とプロ野球選手の法的地位について。

渡辺 だから、彼らは僕をひっかけてね、ナベツネの暴言を引き出す。それだけを商売のタネにして飯のタネにしているんだから。
重松 それでも、端的な発言というのは非常に僕たちの心も動かすんですが、これは言わなきゃよかったなとあとから思われたのは、古田敦也選手会長(当時)に言った「たかが」発言ですか?
渡辺 そうだね。野球協約では球団代表と選手代表が話し合う特別委員会があるけど、オーナーがだね、いちいち出ていって選手と対等に談判するようにはなっていないんですよ。いまだに僕は不思議に思っているんだけど、選手というのは、雇用関係にあるのか、事業主間契約関係にあるのか。事業主であるのか、従業員であるのか。二重人格なんだから。従業員であるるなら、選手労働組合としておやりになればいいでしょう。事業主なら、また別な立場、まるっきり違ってくるわけだからね。弁護士は、二重人格にして、都合のいいほうの立場をとったわけだね。それは完全にね、協約を無視した暴論なんだよ。そういう者に荒らされて、オーナー会議が有効に対抗できなくなっちゃったんだな。最高裁まで争ったらね、事業主じゃないか、契約してるじゃないか、企業と。親会社、企業と契約関係にある。だから、事業取引をやっているんであって、労使の関係ではないじゃないかと。必ずそうなりますよ。


プロ野球選手の地位についてはよくわからないので、参考としてこことかこことかここあたりを読んでもらうとして、ストライキ騒動については「現場のやり方がまずくて」と反省しているような、どちらかというとしていないような感じなので、1リーグ構想はあきらめてないんでしょうね。


最後に一つ付記すると、この号は巨人軍特集で、他にも色々インタビューがあったんですが、このインタビューだけインタビューアがBRUTUS(編集部)ではなく、直木賞作家の重松清さんだったのも面白かったです。


BRUTUS (ブルータス) 2009年 7/15号 [雑誌]

BRUTUS (ブルータス) 2009年 7/15号 [雑誌]