人間を描いていった結果がこれだよ!「安積班シリーズ」(今野敏)

安積がそう言ったとたんに桜井がさっと立ち上がった。村雨が席を離れるのをじっと待っている。まるで犬のようにしつけられていた。桜井は新米刑事なのでベテランの村雨と組ませている。このコンビは須田・黒木のコンビとあらゆる面で対照的だった。須田は部長刑事としての経験が比較的浅い。それであまり年の離れていない黒木と組ませた。須田と黒木は息の合った仲間という感じだが、村雨と桜井は、明らかに上司と部下、あるいは親分と子分、もっと言えば主人と犬のような関係だ。
厳しくしつけるのはいい。だが、それが桜井の個性を殺しているのではないかと、安積は常々気にしていた。桜井はどんどん自閉的になっていくような気がする。発言は減り、ただ村雨に言われるとおりに行動するようになったのではないだろうか?
いずれ、ちゃんと話をしなければならないな。そう思いながらずるずると月日がたってしまった。
『部下』(「最前線」に収録)より


なんだかドラマ化もされたとかされないとかいう「安積班シリーズ」ですが、警察のリアルな感じや、お話の内容以外に読んでいて面白いのが、主人公の安積係長が上に引用したように、色々気にしすぎなところです。他にも別れた妻と一人娘について気にしたり、同期の機動隊隊長・速水や、およそ警察官らしくない変わり者の部下・須田などほぼ全方位を気にしていて、それはもう毎度しつこいくらい気にしています。たまに短編などでその部下視点のものがあったりして、そこで安積係長が色々気にかけていることがやっぱり気にしすぎだったことが判明するのですが、でもどっちかというと現実ってそういうもんだよなと思いました。
最後にこのblogを読んでいる読者諸兄にとって耳が痛いであろう文章を引用。けだし名言である。

「反社会的な集団は面子にこだわるものだ。それしか拠り所がないからな」
『残照』より


残照 (ハルキ文庫)

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