You may meet a cow? 『たまさか人形堂物語』(津原泰水)

人形こそ自分、舞台こそ生活の場、嘘こそ真、夢こそ現――これら、私が見慣れてきた小さな世界での常識は、外の世界から見れば狂気に他なりません。(中略)現実は逆でして、世間が驚いたり喜んだりしてくださるのは、あくまで人形に対して、舞台に対してなのです。人形作家や操者への拍手は、ついでの社交辞令に過ぎません。このことを忘れた作家や操者が、外界のルールを真似て名詞一枚で世を渡って行こうとしたとて、冷たい嘲笑にさらされるのが落ち。すなわち表現者たちにとって狂気は、生きていくうえでの命綱なのです。(P140-141)


女性誌に連載されたものだからか)基本的に女性視点なので『赤い竪琴』のようにいまいち合わないかも……と思っていたけどそれは杞憂だった。どの短編にも読んでいて時にはハッと、時には夢現にさせられるようなところがあって、さすがだなあ、と。個人的には「最終公演」が好み。


自分がモデルだという顔のない人形の修理を依頼してきた妙齢の女性。だがその人形は30年以上前につくられたものだった「毀す理由」、ダッチワイフと男たち「恋は恋」、町屋人形のまち村上で起きたある不審死と附子の方伝説「村上迷想」など六編を収録。http://www.quilala.jp/from_bs/interview.htmlのインタビュー(第46回)も。


たまさか人形堂物語

たまさか人形堂物語