たどりついた人生/『巡礼―珍日本超老伝』(都築響一)

有名カメラマンから、「君はたくさん撮っているようだが、たくさんの中傑作を一枚作る、そういう一点傑作主義を目指しなさい」という、しごくまっとうな助言を受けた。そこで納得と思いきや、「そういう傑作を目指すのは、評価を得ることによって、それで写真を売っていかなきゃならないプロの貧しい発想。自分は評価を得る必要も、発表する必要すらないんだから、一生かけて駄作の海に沈没してやる!」とこころに誓ったという。すごい、こういう境地に、プロは絶対に到達できない。(P14)


変わった老人たちへのインタビュー集、といえば、前に他の本から野坂さんの言葉を引用したのを思い出す。まあこの本はインタビュー集というよりレポートという感じだけど、やはり面白い。
他には都築さんによる老人それぞれへのアオり文句が大変にイカしていて(たとえば上で引用したアマチュアカメラマンの北村公さんのは女体に生きて悔いなし、カメラを抱えた退屈男)引用したくなったので、全選手入場風に紹介(太字がアオり文句)。


下町商店街に降誕した「宇宙家族」という名のメシヤ!! 食堂「宇宙家族*1マスター 福田泰昌!!!
住宅街の片隅で老剥製師の見る夢は!! ハセ川はく製店主 長谷川芳隆!!!
男なら城を持て!道楽極めた悠々生活!! 佐和山遊園管理人 泉巌!!!
貝がら担いで50年、我が堂守人生に悔いなし!! 貝がら公園管理人 山本良吉!!!
“俺の人生三百年!”600円を150億にした波瀾万丈一代記!! 東北サファリパーク代表 熊久保勅夫!!!
人生の追い越し車線を突っ走る“日本一の性豪老人”!! 性風俗研究家 安田義章!!!


そして「人生の追い越し車線を突っ走る“日本一の性豪老人”」安田さんの発言。

自分は女の人と交わるのがおもしろくておもしろくて、どんどん追求しているうちに、気がついたらこうなっていただけだという安田氏。「道楽を突っ込んでいくと、道楽じゃなくなって、人生になる」と言いながら、コタツのテーブルいっぱいに広げた放尿写真や乱交パーティの写真を、「これはこうやって撮った、これはこういう女だった」と、いとおしげに説明してくれる87歳の老人が目の前にいる。(P112-113)


どうすか。「道楽を突っ込んでいくと、道楽じゃなくなって、人生になる」。最後に、なんだかいいなあと思った「バナチョコマヨみそカツ」「ブランデーみそカツ」などの変り種みそカツで有名な、花井晧之さん(みそカツ中央亭主人)の発想の源についてのエピソードを。

その発想の源泉は「栄に行って若い子を見る」こと。名古屋一の繁華街、栄にでかけては、きれいな女の子たちを眺めて「爽やかになる」のだという。話しかけたり、遊んだりするわけじゃない。「ああ、キレイだな、キレイな子がおるなって気持ちよくなって。あとは家に帰ってきて、ああ、こういうきれいな子が食べるのには何がいいかな、バナマヨなんかどうかな?そう思って作るんですよ。バナマヨ頼むのは、意外に男が多いけどね」と顔をほころばせる花井さん。(P107)


巡礼―珍日本超老伝

巡礼―珍日本超老伝

*1:2006年10月17日に福田さん「金星に帰還」のため、サイトは閉鎖予定