『名前』(Various Authors)

十九世紀半ば、フランスに、ルイ・ジョルジュ・モーリス・アドルフ・ロッシュ・アルベール・アベル・アントニオ・アレクサンドル・ノエ・ジャン・リュシアン・ダニエル・ウジェーヌ・ジョゼフ=ル=ブラン・ジョゼフ・バーレム・トマ・トマ・トマ=トマ・ピエール=モーレル・バルテルミ・アルテュ・アルフォンス・ベルトラン・デュードネ・エマニュエル・ジョシュエ・ヴァンサン・リュック・ミシェル・ジュール=ド=ラ=プラーヌ・ジュール=バザン・ジュリオ・セザール・ジュリアンというダンス音楽の指揮者・作曲者がいたことを思い出した。
井上ひさし『改名は三文の得』より


外人の長い名前、といえば、ピカソの長い洗礼名が有名だったりするけれど、上のやつもすごい。長くなった理由は「彼の父が属していたオーケストラのメンバー三六人が全員、名付け親になったために三六個のクリスチャン・ネームが並んだ」ということみたいだけど、「トマ・トマ・トマ=トマ」のあたりにはそこはかとない悪意を感じますよね。オーケストラのメンバーも一枚岩ではないなというか、人間関係というか。
で、『日本の名随筆 (別巻26) 名前』。北杜夫の筆名の由来が「北*1」+「杜二夫(とにお)*2→(「いくらなんでも異様と思ったから」)→杜夫」で北杜夫だったり、斎藤茂吉の息子だったりすることを知って面白かったわけだけど、この本の「あとがき」(編者の金田一春彦執筆)に、親にもらった名前が気に入らなくて改名した例として、町田嘉章という邦楽学者が「「博三」という名が気にいらず、戸籍の名を変えるために、全国を回って同姓同名の人を探し、どこからか見付けて、そこへ本籍を移し、同姓同名が紛らわしいからと理由をつけてやっと「嘉章」に改名した」というエピソードがあって、ふーんと思ってググってみたらこんなスレ(過去ログ)が。その64でやけに事情通な人が町田さんについてこんな文章を。

「町田先生が「私は若い頃大病を患い、改名したところ運勢も上向きになり現在まで長命を保っている(当時80歳位、元々は「町田嘉章」だったが、後に「町田佳聲」に改名したいきさつがある)あなたも改名した方が良い」 という勧めがあり改名した」


と、いうことはこの人は「町田博三→町田嘉章→町田佳聲」と2回も改名したらしい。まあ2回目は戸籍名までは変えてないんだろうけど、全国回って同姓同名の人探してまで改名して大病患っちゃあツラいよね。あ、最初に引用した長い名前の音楽家も後年「セザール・ジュリアン」に改名(縮名?)したそうだけど、こっちはググっても全然出てきませんでした。


日本の名随筆 (別巻26) 名前

日本の名随筆 (別巻26) 名前

*1:姓は売れたら改称して東西南北を順に使おうと思った

*2:トマス・マンの『トニオ・クレーゲル』