『ピカルディの薔薇』(津原泰水)

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)に続く、猿渡・伯爵シリーズの短編集。七編の短編のうち、個人的に好きな四篇について感想をば。


『ピカルディの薔薇』
表題作。脳に障害を持ち、五感が無いという青年人形作家に猿渡が「どの人形もご自身とそっくりだ」と指摘するという5ページ目の場面だけでもう青年人形作家がどうなるかは大体読めて、事実その通りの結末になるわけなのだけど、題名にもなった唄(詩?)『ピカルディの薔薇』の挿話などが素敵で、かなり読ませる作品。


『フルーツ白玉』
イヌイット独特の発酵食品キビャック(『もやしもん』の教授も食べてた?)、雀、猪、内田ザリガニ、腸詰めならぬ蛭詰めの血のソーセージなど、凄惨な食の話。なのだけど、終わらせ方(この前の話『籠中花』と繋がる)が美しいので読後感は悪くない、さすが津原泰水というべき作品。蛭詰めソーセージの話を聞き終えた伯爵の感想が面白かった。


『甘い風』『新京異聞』
ウクレレと自分の女房とを交換した男の話『甘い風』と伯爵を訪ねるため新京に渡った猿渡の一夜の幻想的な体験『新京異聞』も良かったです。
最後にけだし名言な感じであった『甘い風』の地の文を引用。熱いです。

小手先の知恵ではない。雲や風向きでも、またなにかを捧げて手に入るものでもない。血と泥にまみれながらの道程そのものなのだ、表現とは。(P213)

 

ピカルディの薔薇

ピカルディの薔薇