『工学部・水柿助教授の解脱』(森博嗣)

「いえいえ、とんでもない。そんなことありません。えっと、主人公やヒロインが考えていることは、先生もお考えになったことなんでしょうか?」
「じゃなかったら書けませんよね」
「まあ、そうですね。でも、主人公を通して、先生がおっしゃりたいこと、というふうに理解してもよろしいですか?」
「それは違いますよ。小説は、自分の言いたいことを主張するためのものではありませんから」
「では、えっと、主人公を通して、先生が理想とすることを体現している、という意味合いでしょうか?」
「いいえ、全然違いますね。小説の中で理想を実現しても、なんの得もないでしょう?気持ちも良くありません。小説で理想を体現するのは、読者なのではありませんか?それは読者の自由です」
「そうですか。えっと、あ、そうそう、先生が一番お好きな作品というのは、どれでしょうか?あるいは、先生が一番気に入っているキャラクタとか」
「特にありません」
(P252より)


『日常』『逡巡』ときて、掉尾を飾るは『解脱』。M(水柿助教授)シリーズ三部作もこれで完結です。このシリーズは文体のせいか、読みはじめるまでちょっと面倒に感じるんですが、慣れるとすらすら読めるという私的には珍しい読書感覚を味わえるシリーズだったので、これで終わりだというのはちょっと寂しいですね。森先生の引退についても、5京円ぐらいする機関車を衝動買いしちゃってお金が入り用になったのでまだ作家続けます、みたいにならないかなーと思います。


工学部・水柿助教授の解脱

工学部・水柿助教授の解脱