溺れたら死ぬだけさ『はい、泳げません』(高橋秀実)

公然猥褻泳ぎ(犬かきと変な平泳ぎ)で20mぐらいを泳ぐのがやっとの、どちらかというと「泳げない」私ですが、この本に出てくるコーチの「浮こうとしない」的な考えはなかなか面白く、夏になったら久しぶりにプールに行こうかなと思いました。
あともう一つ面白かったのは、「泳げない人代表」的な立場でチラっと登場した、海洋生物学の第一人者で、これまで潜水艇に乗って世界中の深海数千メートルに潜ってきたという長沼毅・広島大助教授(水が顔にかかるのも嫌)のコメント。

 先生は力説した。俺たちは仲間、と言わんばかりに。それにしても、彼はこの心理状態でよく深海に潜れるものである。それこそ、こわくないのだろうか。
「大丈夫です」
 ――大丈夫なんですか?
「溺死には大きく二種類あります。肺の中が水浸しになって死ぬ場合と、冷水反射で気道が塞がれて窒息死しる場合。泳げない我々は後者です。泳げる人は泳ごうとして、水をガバガバ肺に入れてしまう。我々はショックで息ができなくなるだけ。冷水の中で人間は仮死状態になる可能性があるので、後で蘇生することもある」
 ――ということは、泳げないほうが安心ということですか?
「そうです。それに、たとえ死んでも泳げないほうが死に顔も安らかなんです」
 彼は、恐怖を法医学的に乗り越えていた。(P171-172)


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