『独白するユニバーサル横メルカトル』(平山夢明)

狂気の見本市というか、これは良い狂気ですねというか、とにかく凄い短編集です。凄いのであらすじとも感想ともつかぬものを語る。


・『C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆』
 少年が他人の狂気に触れていくうちに、ついには狂気=ニコチンに侵されてしまう話。一番ライトな話なので最初に置かれたのだと思う。


・『Ωの聖餐』
 もお超異形。ラストはありがちだがうわあという感じで良し。オメガという名のカニバリ・インテリ・異形と数学者志望だった主人公との会話は傑作『メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)』を彷彿とさせる。


・『無垢の祈り』
 主要登場人物は少女(主人公)と暴力義父と宗教母とシリアルキラですが、話はハッピーエンド。少女の無垢な祈りは届くのでした。


・『オペラントの肖像』
 人間がオペラント条件付けされ、芸術は人を堕落させる「堕術」だとされ禁止されている世界。「堕術者」を取り締まる主人公は実は……という話。ラストはありがちですが奇麗です。


・『卵男』
 インテリ・シリアルキラの卵男は死刑囚。卵男は良いキャラだったけど、私にはちょっと難しかったです。


・『すまじき熱帯』
 わはは。凄いなあ。言葉マニアのみなさんにはたまらないと思うので、ぜひ読んでいただきたい。すまじき。


・『独白するユニバーサル横メルカトル』
 タイトル通り、地図が独白する話(!)。推理作家協会短編賞受賞作品に相応しいクオリティです。


・『怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男』
 組織の拷問師MCが色々大変なことになる話。序盤のMCと組織の「ドン」との会話で、「ドン」がMCを褒めるんですが、その言い方がもの凄くツボでした。以下ドンの台詞を引用。

「MC……MCよ。私はおまえに感激している。この世知辛い世の中でおまえはまさに友情の存する証を私に見せていてくれている。いいぞ、MC」
「MC……これ以上私を感激させるな。おまえが怖ろしくなりそうだ」
「寧ろ、私の理解を超えているのはおまえの方だ、MC。おまえは何故、それほどまでに強靭なのだ」
「揺るぎない。全くもっておまえは揺るぎないな、MC」
「全くだMC、全くだな」


 「揺るぎない。全くもっておまえは揺るぎないな」とか、将来ドン的な立場になるようなことがあれば部下に言ってみたいですね。「揺るぎない。全くもっておまえは揺るぎないな、近藤」とか。他のドン語録としてはMCに「大脳の開頭手術とペース・メーカーの埋め込み手術に立ち会った際、開けた患者の内部に向かって痰を吐き入れたらしい」という新顔の助手を「まぁ、品の良いゴキブリのような男だ」と紹介したりしてます。『独白するユニバーサル横メルカトル』、大満足の短編集でした。おすすめ。


独白するユニバーサル横メルカトル

独白するユニバーサル横メルカトル


メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

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