『十兵衛両断』(荒山徹)

ついに…ついに荒山徹に手を出してしまった。
私は生来歴史に関しては大変疎く、とりわけ戦国〜江戸の歴史については小学生の時に親から買い与えられた「まんが日本の歴史」がたまたま『江戸幕府の成立』という巻だったため、バリバリの家康中心史観の持ち主なわけです。そんなちゃんとした歴史を知らない私が伝奇小説、しかも荒山徹先生の作品だなんて…と思っていたのですが、楽しく読むことができました。


とりあえず読んでいて爆笑したところを引用。

体を沈めた宗矩が、鞘から抜き放った大刀を一閃、低い位置で畳を水平に一薙ぎした――と見るや、忽ち六人分、十二本の足首がすぱっと切り落とされている。
絶叫がわいた。六人の身体が、足下に穴が空いたとでもいうように崩れていく。
(中略)
その一瞬の気合いのうちに、宗矩は大刀を三閃させた。切断された三人の腕が、首が、宙を飛び、それが落下して床を転がる頃には、足首を失った六人に次々ととどめを刺して回っている宗矩の姿があった。
陰陽師・坂崎出羽守』(P252〜253)より


宗矩強いよ宗矩。ここのあたりの描写のイメージ想起力は恩田陸並みと言っても良いのではないでしょうか。
「足首を失った六人に次々ととどめを刺して回っている宗矩の姿があった」には爆笑。倒れた六人にとどめを刺して回っている宗矩の姿が見えてくるようです。

わけがわからぬまま喜平次は七郎に駆け寄ろうとした。その頭蓋を、宗矩の大刀が直撃した。傅役は股間までを一気に斬り下げられ、夕空に血煙をぶちまけて絶命した。
陰陽師・坂崎出羽守』P263より


また宗矩か。ここはなんと言っても「夕空に血煙をぶちまけて絶命した」でしょう。ぶちまけですよ、ぶちまけ。

――集団ノッカラノウム
『剣法正宗遡源』P482より


大爆笑。もうこれは読んだひとならわかるでしょうけれど、読者からしたらここまで読んで良かった、荒山先生ありがとう いつもおもしろい小説を描いてくれて と思う一文ですよね。だって最初の話に「ノッカラノウム」が出てきた時点で、「集団でノッカラノウムやったらどうなるか」ぐらいは思いつくかもしれませんが、思いついても普通は絶対書かない。ではなぜそんな事を荒山先生は書いたのか?書きたかったからですよ。げに恐ろしきは荒山徹なり。


十兵衛両断 (新潮文庫)

十兵衛両断 (新潮文庫)