静謐な終わり『クレィドゥ・ザ・スカイ』(森博嗣)

それが、本当に嘘の話なのか、尋ねようかと思った。彼女も、もしかしたらきいてほしかったのかもしれない。でも、きっと、もちろん嘘だよ、と答えるだろう。仕事の関係で、こんな作り話をいつも用意しているのかもしれない。作りながら嘘の話をしているうちに、どんどん物語ができてしまったのかもしれない。(P50)


これほど雑音の少なく、そして軽やかなシリーズがあっただろうか(反語)、というスカイ・クロラシリーズもこれでオーラス。いやもう、読んでいて「僕」が誰なのか(クリタ?)とかどうでもいいや、と思いましたもん。下に引用した会話、僕=キルドレ=不老不死の子供とフーコ=普通の女性の会話なんですけど、相変わらず読ませますよね(行間を)。

「死んだら、いけないかな?」
「うん、死んだら駄目。それだけは絶対に駄目だと思う」彼女は言った。その言葉は、ほんの少しだけ力が籠もっていた。
「どうして?」
「わからないけど、でも、死ぬのだけはいけないと思う。神様に申し訳ないし」
「神様に、なにか借りがあるんだね」
「そりゃあそうだよ」僕に抱きつきながら、彼女は話す。もう機嫌が直ったみたいで、声に元気が戻ってきた。「生まれたことが、そもそも、ほら、神様のおかげでしょう?その借りが誰にだってある」
「命を、神様から借りたわけか」
「そうそう、それよ」
「だったらさ、死ぬことで、神様に借りを返すことにならない?」
「え?」
「借りたものは、いつか返すんだから」
「うーんと、そうかしら……あれ?でも、せっかく貸してもらったものを、ちゃんとよく使わずに、すぐに返してしまったら、申し訳ないんじゃない?」
「何もしないで、ずるずる長く借りているよりは、ましなんじゃないかな」
「うーん、それは、ちょっとそうかも」彼女はくすっと笑った。「あ、そうだ。あまり早く返してしまうと、悪魔が横取りするんじゃない?」
「若い命はまだ使えるからって?」
「そうそう、そうよ。だから、悪魔がもういらないっていうくらい、使い古さないといけないわけ」
「うん、そうか」
「いい考えだわ」
「そうだね」
(P67-68)


クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

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