『どんがらがん』(アヴラム・デイヴィッドスン)

奇想コレクション」の名に相応しい、素晴らしい一冊でした。以下は各作品ごとの感想。

  • ゴーレム

いきなり飛び道具かよ!正直理解に苦しんだけど、ゴーレムと老夫婦のすっとぼけた掛け合いはナイス。ゴーレムに向かって「それはもう聞いたよ、さっき聞いた」ってねえ。

  • 物は証言できない

お次は社会派っぽい話。歪んだ社会から搾取してきた男に現実は微笑まない。最後の切れ味は相当なもの。

  • さあ、みんなで眠ろう

せつなく、悲しい終わり方のSF。救われない種族たちね。

  • さもなくば海は牡蠣でいっぱいに

ファードさんの博学趣味からの狂気への美しい飛躍。飛躍した先に待っていたのは……ひどいなあ(褒め言葉です)。

  • ラホール駐屯地での出来事

テクニカルなミステリ。やっぱりホラ話はいいなあ。殊能センセイの解説によると「結末について少々解説が必要」だそうだが、結末丸飲み派にはそんなもの必要ないのだ。

  • クィーン・エステル、おうちはどこさ?

ちょっとブラックなおばさんのほのぼのとした日常。

  • 尾をつながれた王族

最初は何かの比喩なのかなと思ったけど、おそらくそういう読み方は適切ではない。
「奴隷は奴隷だ。尾をつながれたものたちが王族なのだ」

全体を通して不穏な空気が流れる、なんともコメントしづらい作品。(解説を読んで)「わざとわかりにくく書いてあるシリーズ」て。

  • 眺めのいい静かな部屋

いいなあ。最後の「オチ」がたいへん良かったです。

  • グーバーども

「ホラ話が一人歩きをしてそのうち自分のところにやってくる」系の作品。回想形式であるのもいい味を出している。

けっこうありがちなお話。でいいんですよね?と確認したくなる、異色なデイヴィットスンの作品群のなかでは異色の作品。全体のバランスを考える殊能センセイの心遣いを見よ。

  • そして赤い薔薇一輪を忘れずに

個人的には一番の収穫。溜め息が出るような切れ味のオチ、そして動機。究極の9ページです(臆面もなくこういうことを言わせる傑作)。

一見ロードムービーふうだが、違うのだろうしよくわからない。これが幻想なのだろうか?とても不思議な感じだ。最後まで地の文の凶暴な力にひきずられてしまった印象。ナポリ

  • すべての根っこに宿る力

これもけっこうテクニカルなミステリ。動機がとんがっている。終盤の署長が格好良いです。

  • ナイルの水源

悪くはないのだけど、切れ味のある短編を続けて読んできたせいか、いかんせん長く感じてしまう(実際長いのだけど)。というわけで読むほうがスタミナ切れなので、そのうち再読しますということで。

  • どんがらがん

同上。軽く読んだ限りでは、確かに解説の通りスラップスティック